この記事は、日本政府観光局の訪日外国人の推移データを基に、訪日外客数の増減がなぜ生じたかを整理、考察する記事になります。
訪日外国人の推移の過去55年間を比較
まずは、観光局のデータにある1964年から2019年の55年間の訪日外客数の推移について見ていこうと思います。
グラフを見ると、直近10年ではリーマンショック後の2009年と、東日本大震災の2011年を除き、急激な訪日外客数の伸びとなっており2008年の835万人から10年後の2018年では3119万人と、4倍近くの増加が起きています。2019年上半期においても、2018年の1589万人に対し、2019年はそれを上回る1663万人となっています。
日本政府は、東京オリンピックが開催される2020年に4000万人の訪日外客数を目標に掲げていますが、オリンピックで観光客が増えることを考えると、達成できない目標ではないと言えるのではないでしょうか。
次に各国の訪日客数の推移を見ると、東アジアの中国、韓国、台湾の客数が10年で急激に伸びていることがわかります。
特に中国の2014年からの伸びは凄まじく、2014年275万人、2015年499万人、2016年637万人と、3年で約3倍に膨れ上がっています。
その背景として、2014年から消費税免税制度の拡充がなされたこと、円安元高が進んだこと、日本政府観光局のSNSを利用した積極的な呼びかけがあったことが重なり、「中国人が買い物しやすい環境」が整ったからだと考えられます。このころから、いわゆる「爆買い」する中国人が急増し、結果、上記のような状況になったと考えられます。一方で経済的な恩恵も大きく、大阪の大丸心斎橋店では、2016年2月期の売り上げが前年度同月の2倍を記録し、爆買いの中心地となっている東京都中央区銀座や、大阪市中央区心斎橋では地価が過去最高を記録しています。
一方で、あまりにも急激な観光客の増加に、各観光地では以下のような様々な問題が生じています。
・宿泊施設、交通機関の混雑
・マナーの悪さ
・ゴミの増加、ポイ捨て
中国人の観光目的として「お花見」がブームを迎えていますが、中国人観光客が撮影のために枝を折ったり、木を揺らして花を散らせるなどの悪質な行為が目立っています。
最近では、京都の祇園などで一部で写真撮影を禁止するエリアを設けるなどの対策がされてきていますが、外国人観光客の多くははそれを無視して無断で敷地内に入り写真を撮る等、あまり効果をあげていないようです。
観光客の増加に伴って、これらの主要な問題に対し、有効な対策を事前に打てるかが重要なポイントになります。
訪日外国人の推移の2019年の動向(1-3月)
ここからは、2019年の訪日外客数の推移について、4半期ごとに見ていきましょう。
まずは1-3月の推移ですが、以下の通りとなっています。
1月:250万人(2018年)→268万人(2019年) +7.5%
2月:250万人(2018年)→260万人(2019年) +3.8%
3月:260万人(2018年)→276万人(2019年) +5.8%
主要な出来事
1月
・中国と台湾にて、航空座席供給量が増加
・旧正月が2月上旬になったため、1月末の需要が増加
・豪州はスキー需要増加
・米国はクルーズ需要増加
2月
・東アジアの春節(旧正月)需要が1月末にずれこみ
・ベトナムのテト(旧正月)は前年比7割程度にとどまる
・タイは航空便の新規就航、増便により3割増
・米国、カナダはクルーズが好調1割増加
3月
・イースター(復活祭)が4月になる
東アジアの仏教圏では旧正月の時期変更により、訪日需要タイミングが前年より変化したようです。また、キリスト教圏でも同様にイースター(復活祭)タイミングが4月に変更となった影響もありました。米国、豪州からは、クルーズ目的で来日する観光客が増加している模様です。宗教・文化的行事により休暇が発生するため、人の動きに大きく影響を及ぼします。
訪日外国人の推移の2019年の動向(4-6月)
4月:290万人(2018年)→292万人(2019年) +0.9%
5月:267万人(2018年)→277万人(2019年) +3.7%
6月:270万人(2018年)→288万人(2019年) +6.5%
主な出来事
4月
・国内ではGWで10連休
・イースター休暇
5月
・国内ではGWで10連休
・韓中関係改善により中国旅行へ流れた
6月
・多くの市場が6月の過去最高に(米国、カナダ、英国、仏国等)
国内のゴールデンウィークの影響で、旅行商品が高騰し、観光地も国内観光客で混雑するため、近隣の東アジアを中心として訪日を控える傾向となったようです。一方で、イースター(復活祭)休暇の影響はプラスに働いたため、全体としては微増の傾向となりました。
訪日外国人の推移の2019年の動向(7-9月)
7月:283万人(2018年)→299万人(2019年) +5.6%
8月:257万人(2018年)→252万人(2019年) -2.2%
9月:215万人(2018年)→227万人(2019年) +5.2%
主な出来事
7月
・中国訪日客が初の単月100万人突破
・日韓問題の影響で訪日客、航空路線減少
・香港市民デモ
8月
・日韓情勢の冷え込み
・香港大規模デモ
9月
・ラグビーワルドカップ開催 欧米豪客増加
・韓国訪日客は前年の約半数にまで激減
中国の観光客の増加が著しく、ついに初の単月100万人を7,8月で連続で突破し、訪日客数を牽引しています。一方で韓国情勢が悪化した影響が大きく、韓国訪日客数は半減しており、それにより8月には今年度初の前年比マイナスを記録しました。また、香港の大規模デモの影響により、香港訪日客は微減の影響がありました。また、9月には国内でラグビーワールドカップが開催され、豪州、欧州、米国からの選手団、観光客の増加が目立ちました。やはり近隣の政治情勢や、国際的なスポーツの祭典は、人の流れに大きく影響することを、改めて感じます。
訪日外国人の推移の今後の予想
2019年10月の集計結果はまだ公開されていませんが、台風19号が関東、甲信、東北の一部地方に甚大な被害をもたらしたため、航空便の欠航等もあり、訪日外客数は減少したのではと考えられます。
今後についてですが、12月国内では年末年始の連休の影響で、GW同様に旅行商品、宿泊費用の高騰や、交通機関の混雑の可能性が高まりますが、昨年2018年はそれほど大きな変化が無かったことを考えると訪日客数への影響は少ないと考えられます。
1-6月の上半期の訪日外客数は前年を上回る1663万人でしたが、下半期においては、7月から韓国情勢が大きく悪化し、韓国からの訪日客が半減していることで、大きく足を引っ張っているようです。直近の日韓情勢は、韓国側の慰安婦問題、徴用工賠償請求問題を皮切りに、日本側も半導体輸出規制強化、ホワイト国リストからの除外の措置を行い、それに対抗するような形で韓国はアメリカを含む保護協定である、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄を一方的に通告してきました。まさに応酬の様相を呈してきた日韓情勢ですが、今後の日韓情勢は双方の有効な歩み寄りも現状では見られないため、韓国訪日客が半減した現状から、徐々に時間をかけて回復していくと見るのが妥当と考えられます。今後の日韓情勢に注目が集まります。
一方で、中国の訪日客が単月100万人を突破するようになり、中国観光客の勢いが止まらなくなってきました。先に述べたように、中国に限らず、外国観光客の買占め、マナー違反、環境汚染等の課題をクリアしていかなければ、2020年の東京オリンピックでの治安維持に影響してくる可能性があります。「ローマの休日」で有名なスペイン広場では、広場前の階段に座り込む観光客がごった返していた状態に手を打ち、立ち止まって飲食を禁止するだけでなく、ついに座ることも禁止する事態になりました。問題にしっかり手を打ったことは評価できますが、実際に座ろうとすると、警官が警笛を鳴らして警告してくる有様で、ゆっくり旅情を味わうどころでは無くなり、本質的に観光地の魅力を落してしまっているのが残念です。
訪日外国人の推移まとめ
日本は東京オリンピックを目の前にして、開催地域や観光地、その土地その土地の良さを失わずに、大勢の観光客に対応できる、「上手い」方法を探っていきながら、キャパシティを超えた観光客に対して「NO」と毅然と対応する姿勢も必要になってくると考えられます。しかし、「中国人お断り」といったような、あからさまな対応をとってしまうと、反発が避けられないため、場合によっては訪日客数に影響を及ぼすかもしれません。正しい対応を考えていく必要があります。
また、航空便に関してですが、国際便の旅客数はLCC、FSAともに、訪日外客数と同様の大きな増加カーブを描いており、2009年から2017年の8年間で91.4%の増加となっています。一方国内線の便数の伸びは2011年から2017年の6年間で29.9%の増加となっており、国際線よりはゆるやかな増加となっていることから、訪日客の日本国内の移動方法は地上の交通手段を主に利用していると考えられます。国際便の急激な増加に伴って、各空港では那覇、福岡空港での滑走路の増設や千歳空港でのターミナルの再編成や、操縦士確保のための取り組みが今後行われる予定です。また、さらに訪日客を呼び込むために着陸料の引き下げも行われています。
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