国内労働力不足解消に向けて、新在留資格である「特定技能(※1)」の制定や、大卒留学生の就職機会を在留資格「特定活動」で拡大する告示改正(※2)が行われるなど、国外からの人材を受け入れるための環境が、いま大きく変わりつつあります。
こうした国の動きをを受け、外国人雇用を巡る昨今の状況変化や、企業が直面する課題の共有と対策提案を目的に、2016年6月26日に一般社団法人外国人雇用協議会が主催となり公開のシンポジウムを開催いたしました。
本シンポジウム開催レポートでは、「企業における外国人受入れの現状と課題」をテーマにした外国人材活用のスペシャリスト4名であり、新たに外国人雇用協議会の理事となったパネルディスカッションの模様をお届けいたします。
パネリスト
・原 英史(一般社団法人外国人雇用協議会代表理事)
・後藤裕幸(株式会社グローバルトラストネットワークス代表取締役社長)
・篠原裕二(ヒューマングローバルタレント株式会社代表取締役)
・柴崎洋平(フォースバレー・コンシェルジュ株式会社代表取締役社長)
・松田秀和(ゴーウェル株式会社代表取締役社長)
モデレータ:
石山アンジュ(一般社団法人パブリックミーツイノベーション代表理事、
一般社団法人シェアリングエコノミー協会政策渉外部長)
急速なマーケットの広がりを見せる外国人材市場
石山:本日のパネルディスカッションのテーマである「企業における外国人受入れの現状と課題」について、近年受け入れを支援する政策が進んでいく中で、企業はどう対応すべきなのか。直近の課題と、課題を解決するための展望について、みなさまで意見交換できればと思っています。
本日は立ち見のお客様もいらっしゃいまして、関心の高さを伺えます。パネリストしてご参加いただいている皆様は、外国人材の受け入れを積極的に進めている企業であり、更にその流れを支援するビジネスを行われております。本日はこうした皆様の取り組みについても、詳しくお聞かせいただけたらと思っています。
まずは、パネリストの皆様による自己紹介と、どのような取り組みをされているのか、それぞれお話いただけますでしょうか。
後藤:グローバルトラストネットワークスの後藤と申します。弊社は外国人専門で賃貸住宅の家賃債務を保証する家賃保証事業や、外国人専門の不動産賃貸事業を通じて、13年間で20万人以上の外国人材の国内就労をサポートしてきました。そこで培った知見を活かし、5年前からは外国人材に特化した人材事業も始めています。
また現在、弊社には200名ほどの従業員がおりますが、そのうち150名が外国人材となっています。20を超える国と地域から人材を受け入れておりまして、ダイバーシティな組織が実現できつつあると感じています。
「特定技能」の制度を使って人材を受け入れる際は、外国人材の生活や就労支援の計画作成が事業者側に義務づけられます。こうした受け入れ企業をサポートする「登録支援機関(※3)」も「特定技能」制度と合わせて運用が開始されまして、当社も登録させていただいています。
松田:ゴーウェルの松田と申します。私自身も外国人材として10年間働いていた時期がありました。
20代の頃に世界各地を回っていた中で、東南アジアの成長性と人の魅力に惹かれて、26歳のときに日本を出て、タイで働き始めました。語学の勉強をしながら、タイで営業や部下育成の仕事に従事した後に独立をし、日本語の中古書店を立ち上げ、タイやシンガポール、ミャンマーにも事業を展開してまいりました。
こうした東南アジアでの経験を日本でも役立てたいと思い、2010年に帰国し、現在の会社を立ち上げました。
ゴーウェルでは3つの事業を展開しています。1つ目は東南アジアに特化した通訳・翻訳事業です。900名の翻訳者と共に、9年間で5000社以上の企業様と翻訳通訳・海外進出、採用支援などを手がけてまいりました。
他にも、銀座で東南アジア語に特化したスクール「ゴーウェルベトナムスクール」の運営や、国内国内に在住する東南アジア人材の就職支援事業も行っております。
篠原:ヒューマングローバルタレント株式会社の篠原と申します。
弊社は、1988年からバイリンガル専門の転職サイトを運営しておりまして、グローバル企業とグローバル人材の橋渡し役を担ってまいりました。弊社が運営する「Daijob.com」には、累計で57万人のバイリンガルにご登録いただいています。
長らく日本人バイリンガルを専門にサイト運営をしておりましたが、近年は外国人材の登録も増えてまいりました。ただ、まだ受け入れ企業が少ないため、就職の斡旋ができない状況にあります。この状況を、なんとかしていきたいと考えております。
柴崎:フォースバレーコンシェルジュの柴崎です。私自身は大学卒業後にSONYに就職し、世界各国の企業様と一緒に仕事をする経験をしました。その当時から、海外人材の優秀さに感動してしまい、日本で働きたいと考えている優秀な人材が世界中から集まる仕組みを作りたいと考え、現在の会社を始めました。
その考えは現在更に発展をし、発展途上国の方々があらゆる先進国で働くチャンスを提供する世界を実現するために「TOPCAREER」という事業を展開しています。
実は日本は、諸外国と比べても圧倒的ホワイトカラーのビザが下りやすいです。ブルーカラーではなく、ホワイトカラーの人材を呼び込むのに適している国でもあります。
外国人材受け入れに向けて、企業側に始まっている変化や、まだまだ変わっていないと感じる部分について
石山:皆様、自己紹介いただき、ありがとうございます。早速パネルディスカッションに入っていきたいのですが、今回のイベントの主催である「外国人雇用協議会」の代表理事である原様に、協議会についてのご紹介と、直近の政策の動向に関する情報提供をお願いできればと思っています。
原:外国人雇用協議会代表理事の原と申します。当協議会は2016年4月に設立しまして「いかにして外国人材の方に、日本社会で活躍いただけるか」というテーマのもと、政策への提言や受け入れ企業の環境整備への支援に取り組んでいます。
石山:外国人材受け入れに関しては、政府も今までになく注力しておりますが、具体的にはどういった流れが来ているのかお聞かせいただけますか。
原:特定の産業分野において、一定の専門性や技能を有する外国人材を受け入れる制度「特定技能」の制定が特に注目されておりますが、それだけではなく、大卒の方を受け入れる仕組みも動き始めています。
石山:ありがとうございます。このような政府の流れを受けて、企業側にも変化が始まっていると思うのですが、受け入れ企業側に変化を感じる点や、逆にまだまだ変わりきれていないと感じる点について、パネリストの皆様にお聞かせいただきたいと思います。まずは後藤様、いかがでしょうか。
後藤:「外国人材」というテーマで、これだけ多くの人が集まるようになったことだけでも、大きな変化だと感じています。私達が長くビジネスを行ってきた不動産業界では、外国人材の就労に関するセミナーを開催しても、30名ぐらいしか集まりませんでした。外国人材を受け入れていくことを、より多くの方々が真剣に考える時代になってきたのではないでしょうか。
日本に住む外国人材は約280万人といわれており、全体の人口比率でいうとまだ2%というですが、ただ、若年層や都市部に限っていくと、その割合は高くなっています。オリンピックをきっかけに、外国人材の受け入れはさらに加速すると考えられますし、30年後も活発であることが見込める数少ない市場のひとつ、という見方もできます。
松田:変わった面でいいますと、今までは日本で働くアジアの方というと、漢字圏の方が大多数だったのですが、最近は非漢字圏の方が増えています。また、企業側も以前は人手不足解消のために、国籍不問という形で外国人材を採用することが多かったのですが、最近は国籍をある程度指定する求人も増えています。事業拡大のために外国人材を活用していく、という動きをする企業が現れてきています。
変わらない点でいうと、日本人がアジア語を学ぶという流れがまだまだ来ないなと感じます。アジア地域の言語を日本人がしっかりと学び、その上で彼らを受け入れていく世界を作っていきたいですね。
篠原:2016年に経済産業省が「国内IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」を発表し、ITの技術者の人材不足が大きく取り上げられました。そのタイミングで、外国人材のIT技術者の需要が急速に拡大をしました。現在は、IT人材の需要はもちろんですが、IT以外の職能においても外国人材の需要が高まってきていることを感じます。「特定技能」の制定によって、外国人材の需要はあらゆる分野で爆発的に増えていくでしょう。
変わらないものでいうと、日本企業のマネジメントのあり方でしょうか。日本企業はマネジメントにおいて明確なミッション示さない点が特徴的ですが、明確なミッションを示さないと、外国人材は動きません。この部分は、変えていかなければなりません。
柴崎:日本での就労を検討されている方は、以前は東アジアの方々が中心だったのが、いまは東南アジアや南アジアにまで広がっています。15億人の市場だったものが、いまや23億人の市場にまで膨れ上がりました。非漢字圏の方々も日本での就労を検討してくださるようになってきたため、日本語教育の重要性が高まってきています。
変わらない点でいうと日本語重視、日本語力を持っている人を採用するというマインドですね。日本語がいま堪能でなくても、スキルを持っていて日本で働きたい人はたくさんいます。日本語以外で面談を行い、採用後に語学力の育成を行う流れが取れればいいのですが、その部分はなかなか変わっていないようです。
価値観の違いがある中で、企業の制度やルールはどうあるべき?
石山:ありがとうございます。お話を伺っていく中で、外国人材の受け入れに関して日本企業が抱える課題は「制度的な部分」と「価値観やカルチャーの面での心のケア」という2つの側面に分けられそうかなという印象を受けました。
まずは制度についてお話を進めていければと思うのですが、価値観の違いがある中で、企業の制度やルールはどのようにして、こうした課題にアプローチしていくべきなのでしょうか。
後藤:まずは採用のやり方ですね。新卒一括採用は日本オリジナルの独特なルールで、海外は通年採用が基本です。最近は国内でもいくつかの企業が通年採用にシフトしており、グローバルスタンダードに寄ってきているなと感じています。
そしてもうひとつは、終身雇用制でしょうか。年功序列で給与テーブルが決まるという日本人の価値観は、変えていかなければなりません。年功序列に若い人材・優秀な人材が割り込む許容が必要です。弊社でも、新卒で入社したばかりのメンバーを主任に任命したり、20代のメンバーに現地法人のトップをお願いするという事象が起きています。外国人材に就労機会を提供する際、社歴を気にしていると優秀な方々の活躍の場を作れないのではと考えることもあります。
このこだわりを変えていかないと、日本は優秀な人材をとれなくなるかもしれません。
松田:後藤さまのお話の通り、外国人材の採用はやはり通年採用で考えていくのが大事なのではないでしょうか。
他にも、就業規則の対応などが考えられますね。年休を一時帰国に利用することへの許可や、イスラム教徒の方向けの祈祷室を用意するなど、彼らのカルチャーを理解した上での制度設計が重要だと感じていますし、むしろやらなければならない時期に来ていると考えています。
篠原:制度そのものに手を入れていくことも大事ですが、最も大切なのは相互理解だと私は考えます。人と人とが働くのですがから、文化や宗教の違いに関して、お互いに理解をしていかなければなりません。
日本人が外国人の人を見る目も、欧米系の方に対するものとアジア系の方に向けているそれとは、正直大きく異なっています。特別扱いをしすぎてしまっている点もあるのではないでしょうか。日本人側が彼らのことを理解しないといけないように、外国人材も日本への理解を深めていく必要があると感じています。
石山:価値観の部分については、メスをいれるのが非常に難しい部分ではあるのですが、うまく機能している企業内のミュニケーション方法などがあれば、ぜひ教えていただきたいです。お互いをリスペクトし合える関係になるには、どうしたらいいのでしょうか?
篠原:海外での勤務経験がある日本人従業員がチームに存在すると、うまくいきますね。別の国で働くときにどんな苦労があるのかを知っていると、相手の気持ちも理解しやすくなるなと思います。
柴崎:制度は今のままでも問題ない。日本人向けの制度を拡充していけば、外国人就労で対応できる枠は広がっていくでしょう。
ただ、外国人材にとっては、日本の評価指標のあいまいさがギャップになることが多いです。その意味でもやはり、どの分野でどういったレベルの方を採用していくのか、ということをきっちり設定し、その上で制度設計やカルチャー醸成を行っていくことが重要ではないでしょうか。
石山:ありがとうございます。採用戦略のお話まで発展しましたが、価値観のすり合わせや制度設計といった点でも、受け入れに際しどこまで対応していけばいいのか、判断が難しいですよね。コストや労力に見合う塩梅などについて、よい事例あればぜひ教えていただきたいです。
松田:就業規則に関しては、当然変えられる範囲で行っていくのがよいのではないでしょうか。例えば先程弊社でイスラム教徒向けの祈祷室を用意した、という話をしましたが、それ専用の部屋を設けたわけではなくて、更衣室を祈祷室と兼用にしたんですね。部屋の前にホワイトボードを置いて祈祷中と書いておけば、誰も入らないです。あまり特別扱いはせず、今まであるリソースの中でやっていく、ということを心がけています。
先程、篠原社長からも海外勤務経験者を採用するといいのでは、というお話がありましたが、弊社でもアジア地域での勤務経験者を積極採用しています。こうした方がいることで外国人材も安心して働けます。駐在経験のある方を委託やアルバイトで採用し、外国人材とコミュニケーションをとっていただくのもよいのではないでしょうか。
石山:ありがとうございます。さて、そろそろ終わりの時間が近づいてきてしまったのですが、最後にお一人ずつ外国人材の受け入れや活用に関して「ここは特にやったほうがいい」というアドバイスを、会場の皆様にお伝えいただけないでしょうか。
後藤:世界人口70億人というマーケットに飛び出して「自社に合った優秀な人を獲得する」というシンプルな考えかたを持つことでしょうか。国内は新成人が毎年125万人にまで限られ、それを取り合うという形になってしまっています。アジアに飛びだせば、25億のうち7割以上の方から「日本で働きたい」という声をいただけるのです。
その中でやはり課題になってくるのは、評価に関するブラックボックス感ですね。評価の透明性を高めるという努力が、ますます必要になってくるのではないでしょうか。
松田:積極的にやっていただきたいことは「彼らを認める」ということですね。最近、弊社ではタイのお祈りの仕方のセミナーというものをやってみました。売上に直結する内容ではありませんが、自分の国の文化を広げるという気持ちを尊重してあげることが自分たちが認められていると感じることにつながり、定着が進むのではないかと考えています。
篠原:外国人を「外国人」と呼ばないことですね。外国人で一括りにしないほうがいいです。ひとりひとり違う人間なので、そのように見るべきですね。
今後外国人材の雇用は、進んでいかざるを得ません。会社を経営していく中では、避けて通れない道なのではないでしょうか。
弊社のクライアント様には人材紹介会社様も多くいらっしゃいます。我々のもとに相談に来るこうしたお客様は、外国人材やバイリンガルを専門には行っていないため、彼らに特化した形で調査や研究を行うリソースを避けない状況下にあります。この協議会を通じて、我々の持っている知見を提供したり、外国人材の雇用に関する情報発信を積極的に行っていけたらと思っています。
柴崎:日本は、ホワイトカラー的な仕事で世界各国の人材を獲得することに優位性があると、私は考えています。ブルーカラーの雇用においては、他国に比べて日本の条件は見劣る部分が多いです。しかしながら、国を超えた形でホワイトカラーの採用に積極的なのは、日本とカナダしかいないのです。
外国人労働者比率は、中東では8割を超えており、北米では2割、日本はたったの2%です。これだけ人口が減ってる中で、少なすぎますよね。ただその穴を埋めることを、本当に「特定技能」だけで行ってよいのでしょうか。高度専門職での受け入れ加速こそ急務です。大卒かつ親日人材をホワイトカラーな在留資格で世界から受け入られる制度を整えたら、23億人の南アジアマーケットで人材獲得を進めることができます。そこをぜひやっていけたらと思います。
石山:非常に濃い議論ができたのではないでしょうか、ありがとうございました。
※1
2019年4月から施行された新たな在留資格のこと。深刻な人手不足と認められた14の業種に、外国人材の就労が解禁される。
法務省「新たな外国人材受入れ(在留資格「特定技能」の創設等)」
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri01_00127.html
※2
日本の大学あるいは大学院を卒業・修了した留学生が日本語を用いた円滑な意思疎通を要する業務を含む幅広い業務に従事することを希望する場合は,在留資格「特定活動」による入国・在留を認めるもの。
法務省「留学生の就職支援のための法務省告示の改正について」
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri07_00210.html
http://www.moj.go.jp/content/001294971.pdf
※3
企業が外国人材を受け入れる際に義務付けられる「支援計画の作成」等を始めとする、特定技能1号の受け入れを支援する機関。
法務省「登録支援機関」
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri07_00205.html
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