日本では二つ以上の国籍を持つ重国籍を認めていません。したがって、日本では新たに国籍を取得した場合は、一方を放棄する義務があります。そのようなケースとして、日本人が外国籍に帰化したいと考え、自分の意志で外国籍を取得した際に、日本国籍を喪失してしまった(国籍法11条)、などがあります。放棄した側の国籍から受ける恩恵が無くなってしまうため、悩ましい問題です。
日本国籍を有することで、多くの海外でビザが不要になることや、日本の様々な福利厚生が得られるため、メリットが大きいので、放棄した場合どうなってしまうか考える必要があります。
この記事は、将来、外国に帰化するかもしれない方や、既に重国籍となっている方などのために、日本国籍の他に外国籍を有する重国籍者が、日本国籍を放棄・喪失してしまうパターンと、放棄した際のデメリットを紹介する記事になります。
日本国籍を放棄(離脱・選択・喪失)する方法
日本国籍を放棄するケースは、複数の国籍を有している重国籍の方は、成人であれば基本的に2年以内に国籍を1つに選択しなければならないため、それに伴って日本国籍を放棄するケースや、2年の選択期間を過ぎてしまう等によって、日本国籍を喪失してしまうケース、さらに自ら離脱するというケースがあります。
まず初めに、重国籍となるケースを整理します。日本国籍の他に、外国国籍を有している、いわゆる重国籍となるケースは以下の5つのどれかに該当します。
参考:法務省ホームページ
(1) 母が日本国籍、父が父系血統主義国の国籍、の子
(例:生まれたときに,母が日本国籍,父がイラン国籍の子)
(2) 父母どちらかが日本国籍、もう一方が両系血統主義国の国籍、の子
(例:生まれたときに,父(又は母)が日本国籍,母(又は父)が韓国国籍の子)
(3) 父母一方または両方が日本国籍である子で,生地主義を採る国で生まれた子
(例:生まれたときに,父母が日本国籍であり,かつ,アメリカ,カナダ,ブラジル,ペルーの領土内で生まれた子)
(4) 外国人父からの認知,外国人との養子縁組,外国人との婚姻などによって外国の国籍を取得した日本国民
(例:生まれたときに母が日本国籍で,カナダ国籍の父から認知された子)
(5) 国籍取得の届出によって日本の国籍を取得した後も引き続き従前の外国の国籍を保有している人
しかし、重国籍者は一定の期間内に国籍を選択しなければならず、選択しなかった場合は、日本国籍を喪失することになります。国籍を自分で選択する期間は、以下の通りです。
重国籍になったタイミングが
18歳に達する前:20歳までに国籍を選択
18歳に達した後:2年以内に国籍を選択
つまり成人(18歳)前であれば、本人が成人した後に自分で国籍が選択できるように、20歳までという長い期間重国籍であることが許されますが、成人後であれば、2年以内に国籍を1つに選択する義務があります。
国籍選択の方法、手続きは、以下の通りです。(本人が15歳未満の場合は、法定代理人が必要です)基本的に、国籍をア離脱するか、イ選択するかのどちらかの手続きを行います。
民法改正により、成年年齢の引下げが2022年4月1日から施行されました。それに伴い、国籍の選択についても20歳の基準から18歳に引き下げられました。
(参考)民法の一部を改正する法律(成年年齢関係)について|法務省
外国の国籍を選択する場合(日本国籍を放棄(離脱)する場合)
ア 日本の国籍を離脱する方法
法務局、または外国にある日本大使館・領事館にて国籍離脱届の手続きを行う
必要書類:戸籍謄本、住所の証明書面、外国籍の証明書面
イ 外国の国籍を選択する方法
選択する外国の法令に定める方法により国籍を選択
市区町村役場または外国の日本大使館・領事館にて国籍喪失届の手続きを行う
必要書類:外国籍を選択したことの証明書類
日本国籍を選択する場合
ア 外国籍を離脱する方法
市区町村役場、または外国の日本大使館、領事館にて「外国国籍喪失届」の手続きを行う
必要書類:戸籍謄本、外国籍の証明書面、住所の証明書面
イ 日本国籍の選択を宣言する方法
市区町村役場、または外国の日本大使館、領事館にて「国籍選択届」の手続きを行う
外国籍の離脱手続きは当該国の政府、公館等に問い合わせる
日本国籍を喪失させられる状況
日本国籍を喪失してしまう状況は、大きく3つ考えられます。
1.日本人(または未成年の親)が自分の意志で外国籍を取得(回復、選択)する場合
2.出生子について、3か月以内に日本国籍を留保した出生届を提出しなかった場合
3.成人後重国籍となってから2年以上経過した場合
詳しく説明します。
1.日本人(または未成年の親)が自分の意志で外国籍を取得(回復、選択)する場合
これは、日本国籍をもつ本人、または未成年であればその親が、以下のように自分の意志で外国籍を取得した場合、外国籍を選択したとみなされ、日本国籍を喪失してしまいます。(国籍法11条)
・外国籍への帰化
・外国籍取得申請
・一度喪失した外国籍の回復
また、日本国籍を喪失した場合は、日本国籍喪失の事実を知った1か月以内に国籍喪失届を本籍地役場または日本大使館・領事館に届け出る義務があります。
2.出生子について、3か月以内に日本国籍を留保した出生届を提出しなかった場合
多重国籍となるケースは先に述べた5つのケースがありますが、これはその中でも出生子が多重国籍として生まれた場合についてです。保護者が、出生子の持つ日本国籍を持ったままにしたいという意思があれば、まず、出生子の日本国籍を留保する、という意思表示が必要になります。出生日を起算日として、3か月以内に、日本国籍を留保する意思表示をした出生届を提出する必要があります。これをしなければ、出生日をさかのぼって日本国籍を喪失することになります。
この出生子の日本国籍を留保の手続きは、その子供が成人して2年後の20歳を迎えるまで多重国籍であることを留保するという意味になります。この手続きをすることによって、20歳になるまでに、本人の意思で自分の国籍を選ぶことができるので、日本国籍を留保しておくことをおすすめします。
3.成人後重国籍となってから2年以上経過した場合
先にも触れていますが、日本では基本的に2年以内に単一の国籍を選択する義務がありますが、手続きをせずに、
・日本人が外国籍を取得し2年経過
・外国人が日本国籍を取得し2年経過
・日本国籍を含む重国籍の出生子が成人後2年経過(20歳になる)
等になった場合、日本国籍を喪失することになります。
日本国籍を放棄(離脱・選択・喪失)した際のデメリット
外国での生活を優先して、日本国籍を放棄するケースがあると思います。日本国籍を放棄した際のデメリットを考えてみます。
1.信用度の高い日本のパスポートを失う
2.日本国民の権利が無くなる
3.日本国内の様々な契約が難しくなる
4.老後の帰国が困難
1.信用度の高い日本のパスポートを失う
日本のパスポートによる日本人であるという証明は、国際的に信頼度が高く、海外旅行などでビザが不要であるケースが多いです。しかし、日本国籍を放棄した場合は、もちろん日本のパスポートは使えないため、そのような恩恵を受けることができません。
2.日本国民の権利が無くなる
大きくは「選挙権」と、「年金加入」です。日本国民ではなくなるので、日本の政治に関与することができなくなります。年金も同様に、加入することはできません。ただし、「年金の受け取り」は日本国籍の放棄後も可能です。ただし、そもそも年金の受給資格は10年以上の支払いを行っている者になるため、それ以下の年金の支払い期間の場合は、国籍を取得した当該国のルールによって異なってきます。
3.日本国内の様々な契約が難しくなる
家や車の購入や、ローンの審査、学校への入学、就職など、より金額が高く、より期間の長い契約程、本人に支払い能力があるか信用が問われてきます。そのような契約を日本国内で結ぼうとしたときに、日本国籍が無いということは大きなマイナスになってしまうようです。
4.老後の帰国が困難
一度日本国籍を放棄したのち、老後にまた日本で暮らしたいと考えるケースがあるようです。物理的には可能ですが、本人が高齢の場合、日本国内にいる近親者は他界している可能性が高く、日本国内で代理手続きをするのが大変なようです。また、書類の手続き等も国際便になるため、時間やお金もかかります。本人の体力も落ちてしまっているため、日本に帰ることを断念した、という結果になることもあるようです。
日本国籍放棄(離脱・選択・喪失)のまとめ
以上、本記事では日本国籍を放棄・喪失してしまうパターンと、日本国籍を放棄・喪失した場合のデメリットについて整理、考察しました。以下に要点をまとめます。
・日本では重国籍を認めていませんので、重国籍となった場合は基本的に2年以内に1つの国籍を選択し、残りの国籍を放棄することになります。
・出生子が重国籍の場合は、出生から3か月以内に日本国籍留保を記載した出生届を提出することで、20歳まで重国籍であることを留保でき、本人が成人後に選択することができるようになります。
・日本国籍を放棄する方法は「離脱」「選択」を選べます。市区町村の役場か、外国の日本大使館・領事館にて手続きができます。
・日本国籍を放棄させられる状況は以下の3つ
1.日本人(または未成年の親)が自分の意志で外国籍を取得(回復、選択)する場合
2.出生子について、3か月以内に日本国籍を留保した出生届を提出しなかった場合
3.成人後重国籍となってから2年以上経過した場合
・日本国籍を放棄した際のデメリットは
1.信用度の高い日本のパスポートを失う
2.日本国民の権利が無くなる
3.日本国内の様々な契約が難しくなる
4.老後の帰国が困難
これから外国に帰化を考えている方、既に重国籍である方は、ぜひ参考にしてください。詳しいことは、法務省のHPや、各当該国の政府HP等を確認するとよいでしょう。
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