海外からの日本の就労者数・留学者数ともに日本で一番多いのが中国人です。今回は、日本で中国人を採用する際の注意点や宗教、日本語能力や活躍・定着に欠かせないマネジメント上の注意点を解説していきます。
中国の基本情報~人口と日本在住の中国人~
まずは、中国の基本情報を見ていきましょう。
中国の正式名称は中華人民共和国であり、2018年時点での人口は13億9538万人、GDPは13兆6000億ドルです。
日本への中国人観光客数は2019年に959万4394人に達し、日本政府観光局(JNTO)によると、その数は年々増加傾向にあります。
日本での中国人就労者数は2019年に41万8327人、留学生数は2018年に11万4950人と、中国人にとって日本は就労や留学の場としても魅力的な存在となっています。
【中国の正式名称】
中華人民共和国
【人口】
13億9538万人(2018年)
【GDP】
13兆6000億 ドル(2018年)
出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』中華人民共和国
【日本への中国人観光客数】
9,594,394人(2019)
【日本での中国人就労者数】
418,327人(2019)
【日本での中国人留学生数】
114,950人(2018)
出典:独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)「外国人留学生在籍状況調査結果」
中国からの中国人観光客、中国人留学生、中国人労働者ともに全ての指標で、一番多いのが中国人です。また、永住者以外の在留資格では、技術・人文知識・国際業務(技人国)でのビザ取得者が一番多く、二番目に多いのが、資格外活動と呼ばれるアルバイト人材です。三番目に多いのが、技能実習生という構成です。
また、厚生労働省「外国人雇用状況」を見てみると、業界別では、103,393人の中国人が製造業で仕事をし、中国人労働者の中で一番多いのがこの業界です。二番目に多いのが、卸売業・小売業で84,208人が働いています。三番目に多いのが、宿泊業・飲食・サービス業となっており、61,289人が働いています。
中国の基本情報~中国人の民族と宗教~
中国では、漢民族(92%)と55の少数民族(8%)に分かれており、中国政府が公認しているのは、キリスト教(カトリック・プロテスタント)・イスラム教・仏教・道教の4つとなっています。また、信仰も民間信仰や無宗教者などがたくさんいます。
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民間信仰(56.2%)
民間信仰は中国では、宗教と認められていないですが、信仰されている人が一番多いです。小規模な地域社会にとどまっており、儀礼や呪術、祭式や行事によって、民間社会の信仰が代々継承されています。その民間信仰には、民衆道教やシャーマン・シャーマニズム的信仰、アニミズム的信仰などがあります。
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仏教(13.8%)
中国で、仏教を信仰する人は、二番目に多いです。紀元1世紀前後にインドから伝わり、その後「漢民族仏教」、「チベット仏教(ラマ教)」、「南仏教」の3種に分かれました。漢民族の中で宗教を信仰している人の大半は「漢民族仏教」を信仰しており、「チベット仏教」は、チベット族やモンゴル族などの900万人、「南仏教」はタイ族などの100万人となっています。政府が許可している寺院は13,000か所です。
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道教(13.7%)
中国で、道教を信仰する人は、三番目に多いです。中国で生まれた漢民族の宗教で、基本的には中国の民間で信仰している自然の神々への信仰の集大成で、老子の道家の思想を中心に据えています。現在も漢民族の精神文化に影響を与えています。
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無宗教(12.6%)
中国で、無宗教の人は、四番目に多いです。特定の宗教を信仰しない、または信仰そのものを持たないという思想・立場を指します。
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キリスト教(2.4%)
中国では、キリスト教には2つの教派があり、1つを天主教(カトリック)、もう1つを基督教や耶蘇教(プロテスタント)と呼んでいます。カトリックは、新中国成立後、欧米からの自立が課題となり、1958年からはローマ法王だけに認められている主教ら聖職者任命も独自に行っています。プロテスタントは、1954年、外国人神父依存から脱却して「自治、自養、自伝」を目的とする「三自愛国運動委員会」を設立しました。
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イスラム教(1.7%)
紀元7世紀に中国に伝来し、回族、ウイグル族、カザフ族など主に少数民族の間で信仰されていて、信仰者数は1,800万人、イスラム教を職業とする宗教家は4万人である。イスラム教は、スンニ派とシーア派に大別されるが、中国のイスラム教徒はスンニ派に属しています。
中国人の仕事の考え方(仕事観)
キーワードは、「合理的」「率直」「結果重視」「プライベート優先」「自己主張」の5つです。
仕事観:キャリア志向(日本人と比較して、高い vs 低い)
中国人は、キャリア志向がとても高いです。
昇進をして、キャリアのステップアップを目指す中国人は、多いです。また、中国人は、会社に属しているという感覚よりは、自分の能力を会社に貸しているという感覚の方が多いので、今いる会社でキャリアパスが描けなかったり、年功序列的に昇進まで時間がかかったりする場合は、転職の機会を探す傾向があります。
日本企業が中国人を採用する際には、平等で客観的な評価基準をもとに、年功序列的ではなく、能力主義・成果主義に重きを置いた、昇進(キャリアパス)の基準を改めて作り直しておくことが、特に重要です。
仕事観:給与の優先順位(日本人と比較して、高い vs 低い)
中国人は、給与の優先順位がとても高いです。
給与を上げるということに関しては、日本人よりも拘りが強いことが一般的です。キャリア志向が高いということと連動して、昇進昇級を狙って、転職の機会を探すことはとても多いです。
具体例には、同僚同士で給与を見せ合って、他社との比較をすることが多々あります。給与を見せ合うことに抵抗感が少ないです。納得がいかない場合は、上司や会社に合理的な説明を求める。また、中国と日本の社会保険制度や所得税に関する制度は一緒ではないので、給与の内訳や税金に関しては、しっかり説明することがとても大切です。
仕事観:仕事とプライベートの優先順位(日本人と比較して、仕事優先 vs プライベート優先)
中国人は、プライベート優先な人が多いです。
中国人の特徴として、与えられた仕事・評価に直結する仕事以外のことをするのは、損だと捉えることが多いようです。例えば、日本人は、会社で、身の回りのものを片付けたり、清掃したりすることを、小学生の頃から習慣的に行っていますが、このような仕事の評価と直接的な結びつきのないことを、中国人は率先して行うことは少ないです。直接的に評価に結びつかないことをして、仕事の時間を伸ばして残業するなら、自分の時間を大切にしたいという方が多いようです。
異文化理解力の8つの指標~日本人から見た中国人~
異文化理解力を身につけることは、グローバル化が進む現代社会においてますます重要となっています。その中でも、日本と中国という2つの国に着目して、異文化理解力の8つの指標を考えてみましょう。日本人から見た中国人のコミュニケーションやビジネスにおける傾向を把握し、相互理解を深めることができるかもしれません。以下、具体的な指標について解説します。
コミュニケーション(日本人と比較して、ローコンテクスト vs ハイコンテクスト)
中国人は、日本と変わらないほど、ハイコンテクストなコミュニケーションをします。
日本人も中国人も共に、ハイコンテクストな国に分類されます。宗教観や文化には近しいものがありますが、全く同じバックグランドではないため、ビジネス上で会話をする際には、多少の誤解が生まれることがあるので、注意が必要です。
評価(日本人と比較して、直接的なネガティブフィードバック vs 間接的なネガティブフィードバック)
中国人は、日本人よりも直接的なネガティブフィードバックをより好みます。
日本人も中国人も世界的には、間接的なフィードバックを好む傾向がありますが、日本人から見たら、多少直接的にフィードバックをする必要があります。また、実際にネガティブなフィードバックをする際は、人前ではなく、1対1で直接面と向かって、合理的に伝えることが大切です。
説得(日本人と比較して、原理優先 vs 応用優先)
中国人は、日本と同様に人を説得する際、応用優先をより好みます。
日本人が中国人の部下や同僚を、説得する際は、日本人と同様に、最初に事実や意見を述べてから説明することが大切です。
リード(日本人と比較して、平等主義 vs 階層主義)
中国人は、日本と同様に組織として階層主義(ピラミッド型)をより好みます。
中国人は、日本的な年功序列に応じてではなく、成果や結果を残す人や権力者に対して敬意を示します。ただ、中国人は、立場に関係なく上司や経営者に対しても、腑に落ちないことがあれば、しっかりと意見をします。さらに、仕事ができない人に対しては、上司部下にかかわらず、態度も厳しくなります。
決断(日本人と比較して、合意志向 vs トップダウン式)
中国人は、トップダウン式をより好みます。
日本のベンチャーや中小企業では、オーナー企業によるトップダウン式が多々ありますが、日本ではほとんどの場合、合意志向が強いです。逆に中国人は、一貫した強力なリーダーが徹底して会社を進めていくのを好む傾向があります。弱気な多数決やみんなの意見を聞くという姿よりも、強力に引っ張っていくタイプの日本人上司のもとに、中国人社員を配置することで、仕事環境がより良くなります。
信頼(日本人と比較して、タスクベース vs 関係ベース)
中国人は、仕事上での信頼は、関係ベースが強いです。
欧米では、信頼向上は、タスクに起因することが大きいですが、日本も、中国もより関係性に起因することが大きいです。中国人社員と仕事をする際は、人間関係をよりしっかりと築くことで、信頼を獲得することができます。
見解の相違(日本人と比較して、対立型 vs 対立回避型)
中国人は、意見の相違に対して、対立型をより好みます。
欧米の人々と比べると、意見の相違があった際の対立は強くないですが、日本人から見ると、対立型であるのは違いありません。反対意見をする際や、意見の相違を伝えることで、人間関係に影響を与えることはないと思っていることが多いです。日本の企業では、反対意見を言ったりすると人間関係にもネガティブな影響を及ぼすことがありますが、基準が違うことをしっかりと理解し、中国人社員の意見に対しては、この基本知識を入れておくことで、関係悪化を防ぐことができます。
スケジューリング(日本人と比較して、直接的な時間 vs 柔軟な時間)
中国人は、スケジューリングや時間に対して、柔軟な時間をより好みます。
日本人は、1週間前や1ヶ月前に予定を入れてスケジュールを埋める方が多いですが、中国人は、できるだけスケジュールを空けるようにしています。これは、いつ旨みのあるビジネスや話が飛び込んで来てもチャンスを逃さないために空けている事があります。また、時間に関しても、開店時間=出勤時間と考えている方が多く、開店に合わせて事前に準備をしようということも基本は考えません。
中国人社員が抱えやすい悩み
中国人社員が抱える悩みには様々なものがありますが、その中でも特に多いのが自己評価と実際の評価の乖離、キャリアアップの見通しの不透明さ、そして低い給与や昇給の見込みのなさなどです。特に能力を持ちながらも、評価や報酬に反映されないことに悩んでいる方も少なくありません。以下、その詳細について掘り下げてみましょう。
自分の能力評価がされない。自己評価よりも低い。
日本人と比べて、自分の時間と能力を会社に貸している感覚の強い中国人は、公正公平な仕事の成果による評価がなされない場合にこのような悩みを抱えます。また、自己主張をしっかりとする方が多いので、納得できる説明を求めてくる場合が多々あります。
<中国人採用をする日本企業ができる対策>
人事評価の評価項目の見直しや、成果・結果にフォーカスされた評価制度を整えることである程度は対策できます。ただ仮に、年功序列的な制度の場合は、その理由を採用前にしっかりと伝えておかなければ、採用後の定着に問題を起こす場合が多いです。
キャリアアップが思い描けない。
昇級志向の強い中国人は、どんな成果や結果を出したら、どんなキャリアステップが描けるのかを気にしています。日本人の場合、曖昧に、何年くらいしたら、リーダーになる、課長になる、部長になる、という時間軸だけでざっくりと説明してしまいがちですが、このような説明では、中国人は納得しません。
「リーダーになるには、どのような能力やスキルが必要で、どんな事ができればなれるのか?」「課長になるには、どのような能力やスキルが必要で、どんな事ができればなれるのか?」「部長になるには、どのような能力やスキルが必要で、どんな事ができればなれるのか?」というように、細かいスキル条件などがわからない場合に不満を抱える事が多々あります。
<中国人採用をする日本企業ができる対策>
人事制度として、明瞭なキャリアステップを、作ることと、それに伴う条件もしっかりと提示する必要があります。
給与が上がらない。給与が少ない。
中国人が仕事をする上で、給与を上げることは、何よりも大切と言っても過言ではありません。中国は、目覚ましい経済成長を続けてきた結果、国内では、すでに日本人よりも稼げる仕事が多いです。また、日本で働いている中国人も母国の友人などと給与の比較をしたりする事があります。中国人は、自分の友人と比較して、自分の給与が低いと、給与に関して不満を抱えやすいです。さらに、自分の会社でも自分自身が自分より能力が低いと見積もっている人が自分よりも高い給与を得ている場合も、不満を抱えやすいです。
<中国人採用をする日本企業ができる対策>
中国人採用をする際は、給与設計もしっかりと制度を整え直した方が良いです。ここは、人事評価に合わせて、適切な説明ができる事が絶対に必要です。また、どうなったら、給与が上がるのかを説明してあげる事で、給与への不満を減らす事ができます。
さらに、中国企業と日本企業では、税金も異なるので、額面と手取りの違いもしっかりと伝えることが大事です。
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