強制送還(退去強制)とは何か、手続きの流れや費用の負担者、送還先の決定基準、再入国の可否を2026年3月現在の最新情報で解説。2024年改正入管法の変更点や「不法滞在者ゼロプラン」、企業が取るべき対策も紹介します。
強制送還(退去強制)とは
強制送還とは、日本に在留している外国人を国家の行政権限によって強制的に国外へ退去させる措置の総称です。法律上の正式な用語では「退去強制」と呼ばれ、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」)に基づいて行われる行政処分です。
外国人が日本に適法に在留するためには在留資格(いわゆる就労ビザなど)が必要ですが、犯罪行為や不法就労、不法滞在(オーバーステイ)などの入管法違反があった場合に、退去強制の対象となる可能性があります。
強制送還には「退去強制」と「出国命令」の2つの手続きがあり、それぞれ対象となるケースや手続きの厳しさが異なります。外国人を雇用する企業にとっては、従業員が強制送還の対象とならないよう適切に管理することが重要です。
退去強制と出国命令の違い
退去強制は、入管法第24条に定められた退去強制事由に該当する外国人を、行政手続きを経て強制的に日本から送還する措置です。退去強制が決定すると、原則として収容施設に収容されたうえで送還されます。
一方、出国命令は、不法残留(オーバーステイ)をしている外国人が、一定の条件を満たした場合に適用されるより緩やかな措置です。出国命令の場合は収容施設に収容されず、出国準備期間が与えられます。出国命令が適用されるための主な条件は以下のとおりです。
- 速やかに出国する意思をもって自ら入管に出頭したこと(2024年6月施行の改正入管法により、摘発後に速やかに出国の意思を表明した場合も対象に拡大)
- 不法残留以外の退去強制事由に該当しないこと
- 過去に退去強制や出国命令を受けたことがないこと
- 窃盗罪等の所定の罪により懲役・禁錮に処せられたことがないこと
- 速やかに日本から出国することが確実であること
強制送還の対象となる主な事由
入管法第24条には、退去強制の対象となる事由が列挙されています。外国人を雇用する企業が特に注意すべき主な事由は以下のとおりです。
- 不法入国・不法上陸:有効な旅券を所持せず日本に入国した者、入国審査官の許可を受けずに上陸した者
- 不法残留(オーバーステイ):在留期間を超えて日本に滞在を続けている者
- 資格外活動:許可された在留資格の範囲外の活動を専ら行っている者(例:留学生が資格外活動許可なく就労している場合)
- 犯罪行為:住居侵入、偽造、窃盗、詐欺、傷害などの刑法犯罪で有罪判決を受けた者
- 在留資格の取り消し:虚偽の申請により在留資格を取得した場合や、正当な理由なく在留資格に基づく活動を一定期間行わない場合
- 売春関連:売春に直接関係のある業務に従事した者(有罪判決の有無を問わない)
- 退去命令違反:退去命令を受けたにもかかわらず速やかに退去しない者
また、2024年6月に施行された改正入管法では、永住者の在留資格取り消しに関する新たな規定が設けられました。故意に公租公課(税金・社会保険料等)の支払いをしない場合や、一定の刑罰法令に違反して拘禁刑に処せられた場合は、永住者であっても在留資格が取り消される可能性があります(2027年施行予定の部分を含む)。
強制送還の手続きの流れ
退去強制手続きの流れ
退去強制の手続きは、以下の段階を経て進められます。
- 違反調査(入国警備官による調査)
通報、自首、警察からの情報提供、入管職員の調査などを端緒として、入国警備官が不法入国・不法残留等の事実の有無を調査します。
- 収容または監理措置
調査の結果、退去強制事由に該当する「相当の理由」があると認められる場合は、収容令書が発付され、身柄が収容されます。収容期間は原則30日以内ですが、やむを得ない事情がある場合は最長60日まで延長されることがあります。なお、2024年6月施行の改正入管法により「監理措置制度」が導入され、収容に代えて監理人(親族や支援者等)の監督のもとで生活しながら手続きを進めることも可能となりました。
- 違反審査(入国審査官による審査)
入国審査官が、対象者が退去強制事由に該当するかどうかを審査します。退去強制事由に該当すると認定され、本人がこれを認めた場合は、退去強制令書が発付されます。
- 口頭審理(特別審理官による審理)
違反審査の認定に不服がある場合や、日本での在留を希望する場合は、通知から3日以内に特別審理官に対して口頭審理を請求できます。弁護士等の代理人を立ち会わせることも可能です。
- 法務大臣への異議の申出
口頭審理の結果にも不服がある場合は、法務大臣に対して異議の申出を行うことができます。法務大臣が異議に理由がないと認めた場合は退去強制令書が発付されます。一方、法務大臣が在留を特別に許可すべき事情があると認めた場合は「在留特別許可」が付与される可能性があります。
- 退去強制令書の執行(送還)
退去強制令書が発付されると、入国警備官によって送還が執行されます。直ちに送還できない場合は、送還が可能となるまで収容が継続されるか、監理措置に付されます。
出国命令の流れ
出国命令の手続きは、退去強制に比べて簡略化されています。対象となる外国人が出入国在留管理局に出頭した後、入国警備官と入国審査官による調査が行われます。出国命令の要件を満たしていると認められた場合、主任審査官により「出国命令書」が交付され、指定された期限(通常15日以内)までに自費で出国することとなります。出頭から出国命令書の交付までは2週間程度で完了するのが一般的です。
2024年施行の改正入管法による変更点
2023年に成立し、2024年6月10日に全面施行された改正入管法(令和5年改正)では、退去強制手続きに関して以下の重要な変更がありました。
- 送還停止効の例外:従来、難民認定申請中は一律に送還が停止されていましたが、3回目以降の難民認定申請者については、「難民認定すべき相当の理由がある資料」を提出しない限り送還が可能となりました。2024年には、この例外規定が17人に適用されています。
- 監理措置制度の創設:収容に代わる措置として、出入国在留管理庁が認めた「監理人」の監督のもとで生活しながら退去強制手続きを進める制度が新設されました。3か月ごとに収容の必要性が見直されます。
- 罰則付き退去等命令制度:退去を拒否する外国人や送還妨害行為を行う外国人に対して、罰則付きの退去命令を発出できる制度が創設されました。
- 出国命令の対象拡大:従来は自ら入管に出頭した場合のみ対象でしたが、摘発後であっても速やかに出国意思を表明した場合にも出国命令が適用されるようになりました。また、この場合の上陸拒否期間が5年から1年に短縮されました。
- 在留特別許可の申請手続きの創設:退去強制手続き中の外国人が、在留特別許可を自ら申請できる手続きが法律上明記されました。
- 補完的保護対象者認定制度の創設(2023年12月先行施行):難民条約上の難民には該当しないものの、紛争地からの避難民など保護が必要な外国人を「補完的保護対象者」として認定する制度が新設されました。2024年には1,661人が認定され、その大半がウクライナ出身者です。
強制送還先はどこになるのか
送還先の決定基準
退去強制令書による送還先は、原則として対象者の国籍または市民権が属する国です。ただし、国籍国に送還できない場合は、入管法第53条に基づき、本人の希望も考慮したうえで以下のいずれかの国が送還先となります。
- 日本に入国する直前に居住していた国
- 日本に入国する前に居住したことのある国
- 日本に向けて船舶等に乗った港が属する国
- 出生地が属する国
- 出生時にその出生地が属していた国
- その他の国(受け入れをしてくれる国)
なお、本人が希望した国であっても、相手国が受け入れを拒否すれば送還はできません。送還先の決定には相手国との調整が必要となるため、時間がかかる場合もあります。
ノン・ルフールマンの原則
入管法第53条第3項では、送還先に選んではならない国として以下を定めています。
- 難民条約第33条第1項に規定する領域の属する国:政治的意見等を理由にその生命または自由が脅威にさらされるおそれのある国(法務大臣が日本国の利益または公安を著しく害すると認める場合を除く)
- 拷問等禁止条約第3条第1項に規定する国:拷問を受けるおそれがある国
- 強制失踪条約第16条第1項に規定する国:強制的に失踪させられるおそれのある国
この規定は「ノン・ルフールマン(不送還)の原則」と呼ばれる国際法上の重要な原則を反映したものです。相手国の状況が対象者の生命や自由を脅かすおそれがある場合は、その国への送還は認められません。
強制送還の費用は誰が負担するのか
強制送還にかかる費用(主に航空運賃や荷物の運搬費用)の負担方法は、「自費出国」「国費送還」「運送業者の負担」の3つに分かれます。
自費出国
自費出国とは、退去強制の対象となった外国人が自らの費用で航空券等を購入し出国する方法です。自費出国が認められるには、以下の2つの条件を満たす必要があります。
- 本人が日本から退去する意思を持っていること
- 出国のための航空券や費用を具体的に支払い可能であること
出入国在留管理庁によると、被退去強制者の90%以上が自費出国により送還されています。入管法第52条第4項では、自費出国を原則的な形態として位置づけており、国費送還が国民の税金で賄われることを踏まえ、自費出国が可能な者については極力その努力を促す運用となっています。
国費送還
国費送還とは、国の費用で送還を行う方法です。以下のようなケースで適用されます。
- 帰国費用を工面できず、送還が困難となっている場合
- 人道的配慮から早期送還が必要不可欠と判断される場合
- 本人が退去の意思を持たず、自費出国が見込めない場合
国費送還は国家予算(税金)から支出されるため、その増加は財政上の課題となっています。出入国在留管理庁は不法就労・不法入国の取り締まりを強化することで、国費送還の必要性そのものを減らす方針をとっています。
運送業者の負担による送還
運送業者(航空会社や船会社など)が送還費用を負担するケースもあります。具体的には以下のような場合が該当します。
- 上陸審査の過程で上陸を拒否された者を送還する場合
- 入管法第24条第5号から第6号の2までに該当して退去強制される者(仮上陸許可の条件違反など)を送還する場合
- 上陸後5年以内に退去強制事由に該当し、運送業者がその事実を明らかに知っていた場合
これらの規定は入管法第59条(送還の義務)に基づくものであり、入国時に問題があった外国人をもとの輸送機関に乗せて返すことを原則としています。
費用が払えない場合
退去強制の対象者が送還費用を支払えない場合、原則として国費送還の措置がとられます。ただし、すぐに送還できない場合は収容施設に収容されることになり、収容期間が長期化する問題も生じています。2024年6月施行の改正入管法では、監理措置制度の導入により、収容以外の選択肢も設けられるようになりました。
強制送還後の再入国(上陸拒否期間)
強制送還された外国人は、一定期間日本への入国(上陸)が拒否されます。この「上陸拒否期間」は、送還の種類や違反の回数によって以下のように異なります。
- 退去強制を受けた場合(初回):5年間
- 退去強制を受けた場合(2回目以降):10年間
- 出国命令により出国した場合:1年間
- 摘発後に速やかに出国の意思を表明した場合(2024年改正入管法):1年間(ただし短期滞在での再入国は5年間拒否)
上陸拒否期間が経過した後であっても、再入国が自動的に認められるわけではなく、通常の入国審査を受ける必要があります。なお、2024年の改正入管法では、既に退去強制令書が発付されている者であっても、自発的に帰国した場合は上陸拒否期間の短縮が認められる場合がある旨が規定されています。
強制送還に関する最新動向【2026年3月現在】
「不法滞在者ゼロプラン」の公表と送還体制の強化
2025年5月23日、出入国在留管理庁は「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」を公表しました。このプランでは、退去強制命令を受けても日本にとどまっている外国人(2024年末時点で約3,000人)を2030年末までに半減させることや、入管職員の護送を伴う国費送還の件数を3年後に倍増させることなどの数値目標が掲げられています。
入管庁の公表資料によると、2025年1月から8月までに退去強制令書による送還で出国した者は4,841人、出国命令による出国者は6,680人にのぼっています。ゼロプラン公表後の6月から8月については、それ以前に比べて月平均の送還者数が増加しています。
また、このプランでは、難民認定申請の審査迅速化(2026年中に新規受理した申請の平均処理期間を6か月以内に短縮することが目標)や、電子渡航認証制度(JESTA)の早期導入なども施策として盛り込まれています。
なお、このゼロプランに対しては、日本弁護士連合会をはじめとする法律専門家団体から、難民認定手続きの適正性への懸念や人権上の課題を指摘する声明が発表されており、政策の運用にあたっては引き続き注視が必要な状況です。
監理措置制度の導入
2024年6月の改正入管法施行により、退去強制手続きにおける収容に代わる新たな措置として「監理措置制度」が導入されました。この制度では、出入国在留管理庁が選定した「監理人」(親族、支援者、弁護士等)の監督のもとで、対象者が収容施設に入ることなく社会内で生活しながら退去強制手続きを進めることができます。
監理措置の主な特徴は以下のとおりです。
- 3か月ごとに収容の必要性が見直される
- 監理人には入管庁への報告義務が課されている
- 対象者には出頭義務や居所届出義務が課される
- 逃亡した場合は刑事罰の対象となる
2024年の入管統計によると、監理措置の決定件数は580件でした。収容の長期化による人権問題を解消する制度として位置づけられていますが、監理人の負担や逃亡防止の実効性など、運用面での課題も指摘されています。
強制送還に関連する手続きについて詳しく知りたい方は、以下のビザマネメディアの記事もご参照ください。
日本人でも不法就労に関係ある?不法就労助長罪とは。罰則・対象や在留カードの確認方法を解説(ビザマネメディア)
企業が強制送還のリスクを防ぐためにできること
外国人を雇用する企業にとって、従業員が強制送還の対象となることは、人材の損失だけでなく、不法就労助長罪(3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、または併科)に問われるリスクもあります。企業が日常的に行うべき対策を以下にまとめます。
在留カードの確認を徹底する
採用時には必ず在留カードの原本を確認し、在留資格の種類、在留期限、就労制限の有無を確認してください。出入国在留管理庁が提供する「在留カード等読取アプリケーション」を活用すれば、ICチップの情報と券面の情報が一致するかを確認でき、偽造カードの発見に役立ちます。また、「在留カード等番号失効情報照会」で、在留カードが有効かどうかをオンラインで確認することも可能です。
在留期限を管理し、更新手続きをサポートする
在留期限の管理は外国人本人の責任ですが、企業側も在留期限を把握し、期限が近づいた従業員に対して更新手続きを促すことが重要です。うっかり期限を過ぎてしまうとオーバーステイとなり、退去強制の対象となります。
在留資格と業務内容の一致を確認する
在留資格によって従事できる業務の範囲が決まっています。「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で雇用した外国人に単純労働をさせた場合、資格外活動に該当し、外国人本人だけでなく企業側も不法就労助長罪に問われる可能性があります。
外国人雇用状況の届出を適切に行う
外国人を雇い入れた場合や離職した場合は、事業主はハローワークに「外国人雇用状況の届出」を提出する義務があります。届出を怠った場合や虚偽の届出を行った場合は30万円以下の罰金の対象となります。
資格外活動許可の範囲を把握する
留学生をアルバイトとして雇用する場合、資格外活動許可を取得していることの確認が必要です。許可を受けている場合でも、原則として週28時間以内(長期休暇中は1日8時間、週40時間以内)の制限があります。この制限を超えて働かせた場合、不法就労助長罪に該当する可能性があるため注意が必要です。
在留資格の管理にはビザマネの活用がおすすめ
多くの外国人従業員を雇用する企業にとって、在留カードの期限管理や偽造確認、就労可否の判定は大きな業務負担となります。管理が不十分な場合、従業員のオーバーステイや不法就労を見落とし、結果として企業が不法就労助長罪に問われるリスクがあります。
「ビザマネ」は、外国人雇用に特有の管理業務を一元化できるクラウドサービスです。在留カードの期限が近づくと本社・事業所・従業員本人に自動でアラートが送信されるため、期限切れによるオーバーステイを未然に防止できます。また、在留カードの偽造チェックや就労可否判定もシステム上で簡単に行えるため、人事担当者の業務負担を大幅に軽減できます。
強制送還のリスクを最小限に抑え、コンプライアンスを確保するためにも、外国人雇用の管理にお悩みの企業様は、ぜひビザマネの導入をご検討ください。


