通名は日本だけの制度なのか?その理由を歴史と海外比較から解説。1940年の創氏改名を起点とする経緯、住民基本台帳法による法的根拠、海外との制度比較、企業の人事・総務担当者が押さえるべき実務ポイントまで網羅的に紹介します。
通名とは|本名以外で法的効力を持つ「もう一つの名前」
通名の定義と読み方
通名(つうめい)は、日本に住む外国籍の住民が市区町村に届け出ることで登録できる、本名以外の氏名です。「通称名(つうしょうめい)」「通称」と呼ばれることもあり、法令上は「通称」という用語が使われています。
英語では「Legal alias」と訳されることもあります。単なるあだ名やペンネームと異なり、住民票に記載され、運転免許証や健康保険証などの公的書類にも本名と併記できる名称です。ただし、通名だけで本名を置き換えられるわけではなく、住民票上で本名と対応づけて公的に確認できる名称、という位置づけになります。
例えば、本名が「金 美淑(キム・ミスク)」の方が「木村 淑子」を通名として登録すると、住民票には「金 美淑(木村 淑子)」のように記載され、住民票などの公的書類上で本名と通称の対応関係を確認できるようになります。ただし、在留管理、金融機関の本人確認、税務・社会保険などでは本名との照合が必要になるため、通称だけで本人確認が完結するわけではありません。
通名の法的根拠(住民基本台帳法)
外国人住民の通称は、住民基本台帳法施行令に基づき、市区町村の住民票に記載できる名称です。現行法では、外国人住民が国内の社会生活で日常的に使用している呼称について、必要な疎明資料を添えて市区町村長に申し出ることで、住民票への通称記載が認められる仕組みになっています(住民基本台帳法施行令第30条の16)。
注目すべきは、この明確な法的根拠ができたのは2012年7月の住基法改正以降だという点です。それ以前は、法務省入国管理局長通知「外国人登録事務取扱要領」という行政通知レベルで運用されており、法律としての裏付けはありませんでした。後ほど歴史的経緯のセクションで詳しく見ますが、この「法的根拠なき運用が長く続いた」ことが、通名制度の特殊性を読み解く重要な鍵になります。
通名と本名の使い分け(在留カード・パスポートとの関係)
ここで企業の実務担当者が必ず押さえておきたいのが、書類による通名の扱いの違いです。
通名(通称)を記載できる書類と、本名(本国名)が基本となる書類・場面は、おおむね次のように分かれています。
| 通名(通称)を記載できる書類 | 本名(本国名)が基本となる書類・場面 |
|---|---|
| 住民票(本名と通名を併記) | 在留カード |
| 運転免許証(本人申請により併記可) | 特別永住者証明書 |
| 国民健康保険被保険者証 | パスポート |
| マイナンバーカード(併記可) | 銀行の本人確認(本名確認が基本。金融機関により通称名義を扱う場合あり) |
| 印鑑登録証明書(併記可) | 税務・社会保険の手続き(在留カード等に基づく氏名情報との整合が必要) |
つまり、雇用時に提出される在留カードに記載されているのは本名(本国名)であり、履歴書や名刺で使われている通名とは異なる可能性があります。この「同一人物の名前が複数存在する」状況こそが、通名制度を理解する出発点となります。
「日本だけの制度」と言われる理由|海外との比較で見る通名の特殊性
海外には通名に相当する制度はあるのか
「通名は日本だけ」という言い方は、厳密には正確ではありません。世界の多くの国では、結婚や個人的事情による改名手続き、宗教名や愛称の私的使用などはごく一般的に存在します。外国人が現地式の名前を採用するケースも各国で見られます。
ただし、日本の通名のように「外国籍住民が役所に届け出ることで、本名と並列に住民票へ別名を併記し、公的書類で対応づけて使えるようにする」というかたちの制度は、主要国の中では珍しいものです。「通名は日本だけ」と言われるときに意識されているのは、この日本型の住民票通称制度の特殊性だと整理するのが正確です。
アメリカ・欧州における「別名使用」との違い
アメリカでは、州ごとに名前の取り扱いが異なりますが、原則として個人が改名する自由は広く認められています。一般的には、州の裁判所での法的改名(legal name change)の手続きを経て、犯罪目的や公序良俗に反する名前でなければ改名が認められる仕組みです。
ただし、アメリカや欧州の制度は基本的に「改名(name change)」であって、「本名は変えずに別名を住民登録上で併記する」仕組みではありません。改名すれば古い名前は法的には置き換わり、新しい名前一つで生活していくことになります。日本の通名のように本名と通名が並列に存在し、書類によって使い分けるという二重構造は、欧米の制度設計の中ではあまり想定されていません。
また、ドイツでは結婚時に夫婦の姓に関する複数の選択肢があり、複合姓(いわゆるダブルネーム)を選べる制度もあります。2025年5月のドイツ氏名法改正で、夫婦が共同の姓として複合姓を選べるようになるなど、選択肢はさらに広がりました。ただし、これはあくまで戸籍上の正式な婚姻姓であり、別人格的な二つの名前を使い分ける日本の通名とは性格が異なります。
韓国・中国・台湾の戸籍制度と通名の不在
日本と同じく戸籍制度を持つ韓国・中国・台湾を見ても、日本の住民票通称制度とそのまま同じ仕組みは見当たりません。
韓国では伝統的に夫婦別姓が維持されており、外国人配偶者であっても自動的に韓国式の姓を名乗ることはありません。中国本土でも戸籍(戸口簿)制度はありますが、外国籍住民が中国名を別名として戸籍に併記する仕組みは一般的ではありません。台湾については、外国人が中文姓名を採用・登録する仕組みは存在しますが、日本の住民票における本名と通称の併記制度とは制度の建て付けが異なります。
つまり、戸籍制度の有無は日本型の通称制度の存在を直接説明する要因ではないということが分かります。日本の通名制度を生んだのは、戸籍制度そのものではなく、後述する固有の歴史的経緯です。
日本固有の制度になった3つの構造的理由
日本型の住民票通称制度が根付いた背景には、大きく3つの構造的理由があります。
第一に、植民地支配時代の創氏改名政策によって、朝鮮半島出身の人々が日本式の名前を法的本名として登録した経緯があること。第二に、戦後にその人々が日本に残留し、日本社会で生きていくために日本式の名前を使い続ける必要があったこと。第三に、日本政府が「すでに広く使われている日本式の名前を一挙に無効にすることは行政上困難」と判断し、法的根拠を欠いたまま運用上認める道を選んだこと。
これら3つの要因が重なった結果、主要国の中でも珍しい「外国籍住民の住民票通称制度」が日本社会に定着しました。次のセクションで、この歴史をより詳しく追っていきます。
通名制度が日本に生まれた歴史的経緯|1940年から現在まで
起点:1940年の創氏改名(朝鮮民事令改正)
通名制度の直接的な起点は、1940年(昭和15年)2月に施行された創氏改名(そうしかいめい)です。1939年11月の朝鮮民事令改正によって法制化された創氏改名は、皇民化政策の一環として、朝鮮半島の人々に日本式の「氏(うじ)」を創設させ、日本式の名前への改名の道を開く政策でした。
「氏の創設」は全朝鮮人に適用され、従来の朝鮮式の「姓(せい)」とは別に、日本式の戸主中心の「氏」が法律上の本名として位置づけられました。「改名」は形式上は任意とされましたが、皇民化の指標とみなされ、有形無形の圧力が加えられたため、1940年8月までに約322万戸(全体の約80%)が届け出を行いました。
この時期に届け出られた日本式の「氏」が、戦後も在日コリアンが使い続けることになる「日本名」の出発点となります。
戦後の混乱と運用上の温存(1945〜1947年)
1945年8月の終戦により、朝鮮半島は日本の統治から離れ、1946年には朝鮮側で「朝鮮姓名復旧令」が出されて、創氏改名の法的根拠は本国側では消滅しました。
しかし、戦後も日本に残留した朝鮮半島出身の人々の状況は複雑でした。植民地支配下で本名として登録・使用してきた日本式の名前が、すでに各種の公的記録に蓄積されており、これを一律に無効化することは行政実務上、極めて困難だったのです。
加えて、戦後の日本社会には深刻な就職差別・住居差別・教育差別が存在し、朝鮮半島出身の人々が民族名(本名)で生活することには大きな困難が伴いました。多くの人が、生活を守るために日本式の名前を使い続けざるを得ない状況に置かれたのです。
法的根拠不在のまま続いた60年(1947〜2009年)
1947年に施行された外国人登録令以降、日本政府が選択したのは、法的根拠を欠いた状態のまま、行政運用として通称名の使用を認めるという道でした。
具体的には、法務省入国管理局長通知「外国人登録事務取扱要領」に基づき、外国人登録原票の氏名欄に本名を記載した上で、本人の希望により通称名をカッコ書きで併記することが認められました。2012年6月までは、通称併記の外国人登録証明書が発行されていました。
つまり、通称使用を条文で正面から認めた法律は2009年まで存在せず、約60年間にわたり行政が運用上認めていたに過ぎなかったのです。これは法治国家としては異例の状況であり、通名制度が「日本独自」と言われる最大の理由の一つです。
2009年改正外国人登録法と2012年住民基本台帳法改正による制度化
長く続いた運用上の取り扱いに法的根拠を与えたのが、2009年7月に成立した改正外国人登録法と、これに伴う関連法改正です。これにより、2012年7月から外国人登録制度が廃止され、外国人住民も日本人と同様に住民基本台帳に登録されることになりました。
同時に、住民基本台帳法施行令第30条の16によって、外国人住民が住民票に通称の記載を求められることが明文化されました。これによって、長年にわたり法的根拠を欠いてきた通名制度に、ようやく法律上の裏付けが与えられたのです。
なお、特別永住者証明書および在留カードには通名は記載されません。これは、これらの書類が在留管理のための身分証明書であり、本名による厳格な本人確認が前提となっているためです。
2013年以降の厳格化(変更回数制限・登録要件強化)
2013年(平成25年)11月15日からは、総務省自治行政局外国人住民基本台帳室長による通達に基づき、通名の登録・変更に関する運用が大幅に厳格化されました。
主な変更点は次の通りです。第一に、登録できる通名は一度に一つのみとされました。第二に、安易な通名変更が原則として認められなくなりました。第三に、新規登録時には日常的に通名を使用していることを証明する疎明資料(発行元の異なる2点以上)が必要となりました。
それまでは届出だけで比較的容易に通名を変更できた時代があり、社会的な懸念も指摘されていましたが、この通達以降は変更には合理的な理由と証拠が求められるようになっています。
通名を登録できる人と登録方法|2026年最新の運用ルール
通名登録の対象者(外国人住民のみ)
通名を登録できるのは、日本に住む外国籍住民に限られます。日本国籍の方は通名登録ができません(日本人が日常的に使っている名前を法的に変更したい場合は、家庭裁判所の改名許可を経た正式な戸籍名変更となります)。
具体的に通名登録が認められるケースは、次の3つのいずれかに該当する場合です。
- 日本国内における社会生活上、日常的にその名前を使用している場合
- 婚姻関係などの身分行為に基づいて、新たに通称を記載する場合
- 日系外国人が本名の日本式氏名部分を名乗る場合
登録に必要な書類と疎明資料
通名を新規登録する際には、住所地の市区町村役場で次の書類を提出します。
- 本人確認書類(在留カード、特別永住者証明書、運転免許証、パスポートなど)
- マイナンバーカードまたは住民基本台帳カード(所持している場合)
- 通称を社会生活において日常的に使用していることを証する資料(2点以上)
疎明資料として認められる主なものは、勤務先発行の身分証明書(社員証・在職証明書・給与明細書)、学校発行の学生証・在学証明書、通称名で配達された郵便物、公共料金の領収書などです。
ただし、手書きの書類、個人的なキャッシュカード、預金通帳などは原則として認められません。また、発行元が異なる資料が2点以上必要で、同一の発行元から複数の書類を集めても1点としかカウントされない自治体が多い点に注意が必要です。
なお、日本人配偶者と結婚し、配偶者の姓を通称として登録する場合は、これまでの使用実績がなくとも例外的に新規登録が認められる運用となっています。
登録できる文字(ひらがな・カタカナ・漢字)
通名として登録できる文字は、ひらがな・カタカナ・漢字の3種類のみです。アルファベット、ハングル、中国の簡体字や繁体字、その他の特殊な文字は使用できません。
非漢字圏出身の方が本名をカタカナ表記化した通名(例:「Marry Jane」を「メリー ジェーン」と登録)を希望するケースもあり、本名に漢字表記がない外国人にはカタカナ表記の通名登録が認められています。
一人一つのみのルールと変更の制限
前述の通り、2013年11月以降は、一人が一度に登録できる通名は一つのみとされました。複数の通名を並行して持つことはできません。
また、通名の変更には「やむを得ない事情」が求められ、住所地の市区町村が個別に審査します。婚姻による氏の変更や、就職・転居など社会的に合理的な理由がある場合に認められますが、安易な変更は原則として拒否されます。一度通名を廃止して再登録する手続きも、廃止から相当期間が経過しなければ認められないのが一般的です。
通名や帰化後の名前の決め方について詳しくは、以下の関連記事もご参照ください。
通名が使える範囲と使えない範囲
通名が使える書類(住民票・運転免許証・健康保険証など)
通名が公的書類に記載できる主な書類は、住民票、運転免許証、国民健康保険被保険者証、マイナンバーカード、印鑑登録証明書などです。これらはいずれも本名との併記が原則で、通名のみが単独で記載されるわけではありません。
日常生活では、住所地の自治体窓口手続き、医療機関の受診、公共料金の契約、ガス・電気・水道の名義などで通名を使用することが認められています。
通名が使えない、または本名が基本となる書類
一方、通名が使用できない、または本名が基本となる書類・場面もあります。
在留カードと特別永住者証明書には通名は記載されません。これは在留管理上の身分証明書であり、本名による厳格な本人確認が前提となっているためです。パスポートも本国政府が発行する旅券であり、本名のみが記載されます。
銀行口座については、本人確認の段階で在留カードや住民票などによる本名確認が基本となります。金融機関によっては、本人確認書類で本名と通称の対応関係を確認したうえで通称名義の口座を扱うケースもありますが、取扱いは金融機関ごとに異なります。口座名義をどう設定するかは、事前に金融機関へ確認しておくことが重要です。
雇用契約書、社会保険、税務関係書類などの企業実務で重要な書類では、在留カード・住民票・マイナンバーに紐づく氏名情報との整合性を確認する必要があります。給与振込の口座名義と通名・本名の対応関係が一致せず、給与振込のトラブルが発生するケースもあるため、事前の確認が欠かせません。
通名と本名の併記が求められる場面
通名を持つ方が公的書類を使う場面では、本名と通名の併記が求められるのが原則です。住民票には「氏名(通称)」のかたちで両方が記載され、運転免許証も併記申請をすれば両方が記載されます。
これは、同一人物であることを公的に証明するためであり、通名だけで本人確認を完結させるとなりすましなどのリスクが生じるため、慎重な運用が行われています。
企業の人事・総務担当者が知っておくべき通名の実務ポイント
採用面接時の本人確認で起こりやすい混乱
外国人を採用する際、履歴書には通名が記載され、在留カードには本名が記載されているというケースは珍しくありません。在日韓国・朝鮮人の方を採用する場合や、日本で長く生活している中国籍の方を採用する場合に特に多く見られます。
この時、人事担当者が「履歴書と在留カードの名前が違う」「同姓同名の別人ではないか」と混乱し、確認に時間がかかったり、本人に不快な思いをさせたりするケースが発生しています。通名制度の存在を知らないまま採用業務を進めると、こうしたトラブルにつながりがちです。
在留カードと履歴書の氏名が異なる場合の確認手順
履歴書の氏名と在留カードの氏名が異なる場合、慌てず次の手順で確認することが重要です。
第一に、住民票の写し(通称併記)を本人に提出してもらうことです。住民票には本名と通名が併記されており、同一人物であることを公的に確認できます。第二に、在留カードのICチップ情報を読み取り、券面の本名と一致していることを確認します。第三に、健康保険証や運転免許証で通名併記の有無を確認するという流れです。
在留カードの真贋確認については、出入国在留管理庁の在留カード読み取りアプリの活用が推奨されています。詳細は以下の関連記事をご参照ください。
給与振込・社会保険手続きでの注意点
給与振込口座については、金融機関ごとに通称名義の取扱いが異なります。本人確認では在留カードや住民票などによる本名確認が基本となるため、企業側では本名と通称、口座名義の対応関係を事前に確認しておくことが重要です。
社会保険(健康保険・厚生年金)や税務関係の手続きでは、在留カード・住民票・マイナンバーに紐づく氏名情報との整合性を確認する必要があります。これらの情報と社内で使用している通称が食い違うと、後日の訂正手続きが必要になることがあります。
社内で通名を使用する分には差し支えありませんが、税務・社会保険・在留管理に関わる手続きでは、在留カード等に基づく氏名情報と整合を取って管理することがトラブル回避につながります。判断に迷う場合は、社会保険労務士や税理士に確認する運用が安全です。
不法就労助長罪リスクと通名管理の関係
通名制度そのものが直接的に不法就労リスクを生むわけではありませんが、通名の存在によって本人確認の手順が複雑化し、結果として在留カードの確認が不十分になるリスクは存在します。
不法就労助長罪(入管法第73条の2)については、2026年5月時点では「3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金」(併科可)が現行の罰則です。一方、2024年6月に公布された改正入管法により、罰則の上限が「5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金」(併科可)へ引き上げられる予定で、2026年6月14日施行予定とされています。
また、現行法のもとでも、外国人を雇用する際に在留カードを確認していないなどの過失がある場合には、不法就労者であることを知らなかったとしても処罰を免れないとされています(出入国在留管理庁の案内資料による)。つまり、過失による処罰は改正で初めて導入されるものではなく、現行制度ですでに企業の確認義務が問われる仕組みになっています。
企業は、通称の有無にかかわらず、在留カードの確認や在留資格・在留期間の管理を厳格に行う必要があります。通名を持つ外国人従業員を雇用する際は、本名と通名の対応関係を社内システムで明確に管理し、在留カード情報(本名ベース)と社内の従業員情報(通名併記)を確実に紐付けて管理することが重要です。
特別永住者の方の歴史的経緯について理解を深めたい場合は、以下の記事も参考になります。
通名にまつわるよくある誤解と正しい理解
「通名は犯罪に悪用されやすい」は本当か
メディア報道などで「通名は犯罪の温床」といった言説を目にすることがあります。確かに2013年の厳格化以前は、通名の変更回数に明確な制限がなく、複数回の通名変更による身元の不透明化が問題視された事例もありました。
しかし、2013年11月以降は、登録できる通名は一度に一つのみ、変更には合理的理由と証拠が必要、という運用に変更されています。現在の通名は住民票に本名と併記されており、行政・警察も本名と通名の対応関係を把握できる仕組みになっています。「通名で身元を完全に隠せる」という認識は、現在の制度実態とは異なります。
ただし、企業の採用実務においては、通名だけで本人確認を完結させず、必ず本名(在留カード記載の氏名)で照合する手順を確立しておくことが、リスク管理上重要です。
通名は何度でも変更できるという誤解
「外国人は通名を何度でも自由に変えられる」という認識も、現在は事実と異なります。2013年の厳格化以降、通名の変更には市区町村の審査があり、婚姻・離婚などの身分変動や、長期の使用実績変更といった合理的な理由が求められます。
旧制度下の認識が一部で残っているため誤解が生じていますが、現在は日本人の改名(家庭裁判所の許可が必要)に比べれば手続きはシンプルなものの、安易な変更が制度上認められない運用となっています。
日本人は通名登録できるという誤解
通名制度はあくまで外国人住民を対象とした制度であり、日本国籍を有する方は通名登録ができません。日本人が日常的に異なる名前を使っている場合、その名前を戸籍上の正式な名前にしたいのであれば、家庭裁判所での名の変更許可手続きが必要になります。
これは「正当な事由」が必要な手続きで、家族関係や社会的な使用実績の長さ、本人の意思などを総合的に審査されます。日本人が役所に「通名」として届け出る仕組みは存在しないため、注意が必要です。
通名と帰化後の名前の関係
帰化時に通名をそのまま戸籍名にできるケース
外国籍の方が日本国籍に帰化する際、新しい日本の戸籍に記載される氏名を決める必要があります。すでに通名を日常的に使用している方は、その通名をそのまま帰化後の正式な氏名として登録することが可能です。
これは、すでに社会生活の中で広く使われている名前を戸籍にそのまま反映できるため、周囲への影響が最も少なく、最もスムーズな方法です。在日韓国・朝鮮人の方が帰化される際に、通名をそのまま採用するケースが多く見られます。
帰化後に使用できる文字の制限
帰化後の戸籍名に使用できる文字は、戸籍法施行規則第60条により、常用漢字、人名用漢字、ひらがな、カタカナに限定されています。
通名がアルファベットや中国の簡体字・繁体字、ハングルなどを含んでいた場合は、帰化時に日本で使用可能な文字に置き換える必要があります。漢字の旧字体(「邉」「澤」など)も現在は使用可能になっていますが、自由に好きな文字を使えるわけではない点には注意が必要です。
在日コリアンの方が帰化を検討する際の通名の扱い
特別永住者として日本に長く居住している在日コリアンの方は、簡易帰化(国籍法第6条・第7条)の対象になることが多く、帰化申請が比較的スムーズに進む傾向があります。
帰化後の氏名は、これまで使ってきた通名をそのまま戸籍名にできるため、職場・地域での生活への影響を最小限に抑えられます。一方、本名(民族名)を戸籍名として選び、新たな出発として登録される方もいます。
通名と本名のどちらを帰化後の正式名にするかは、個人のアイデンティティに関わる重要な選択であり、本人の意思が最大限尊重される領域です。
まとめ|「日本だけ」と言われる通名制度を正しく理解し、適切な雇用管理を
通名は、外国籍住民が本名とは別の名前を住民票に併記し、公的書類で対応づけて使えるようにする、主要国の中でも珍しい仕組みです。その独自性の根底には、1940年の創氏改名、戦後の社会的差別、法的根拠不在のまま約60年続いた行政運用、そして2009年〜2012年の制度化という長い歴史的経緯があります。
外国人雇用の現場では、通名と本名が併存することで生じる本人確認の複雑さに、人事・総務担当者が直面することが少なくありません。重要なのは、通名そのものを警戒するのではなく、制度の背景と仕組みを正しく理解した上で、在留カード等に基づく本名情報での管理と、通名併記による日常運用のバランスを取ることです。
2026年6月14日施行予定の改正入管法では、不法就労助長罪の罰則の上限引き上げが予定されています。現行制度のもとでも在留カードの確認を怠った過失は問われるため、通名の有無にかかわらず、在留カードの真贋確認と在留資格・在留期間の管理を厳格に行う必要があります。通名を持つ外国人従業員を雇用する企業は、本名と通名の対応関係を社内システムで一元管理し、在留カード情報の確認を確実に行える運用体制を整えておくことが、リスク管理の観点からも欠かせません。
外国人雇用に伴う在留カード管理・在留期限管理を効率化したい企業の方は、外国人雇用管理クラウド「ビザマネ」の導入もご検討ください。本名と通名の併存環境においても、在留カードのICチップ情報を直接読み取って真贋確認と従業員情報の一元管理を実現します。


